<最怖>この世で最も怖い話まとめ

この世で最も怖い話をまとめています。毎日19時20時21時に1話づつ投稿。あなたを恐怖のどん底に落し入れます。朗読もはじめましたのでそちらもどうぞ。

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<最怖>一緒に・部屋・海

「一緒に」

姉の様子が最近変だ。

キッチンのテーブルに腰掛け、口をポカーンと開け、
空ろな目つきで視線を泳がせている。

以前は風呂場や自分の部屋をうろついていたが、
この何日かはキッチンにいついている。

去年母方の祖母が亡くなったが、あの時のことが本当だったのだろうか。

祖母は意識が混濁する前に、僕を枕元に呼び寄せ、確かに言った。

「あの子(姉)もかわいそうだけど、逆恨みされるおまえも不憫だよ。
おばあちゃんが一緒に連れて行くから、それまで辛抱してな」

姉と僕は異父姉弟だった。

四つ年下の僕は両親から可愛がられたが、
姉はそうじゃなかったのだろうか。

十代後半には家を出て男と暮らし始めたが、
両親は真剣に将来を考え、必死に引き止めた。

高校も中退し、警察から補導されるまで荒れていた姉は、
両親に反抗して聞く耳を持たなかったというのが事実だと思う。

その姉が再びうちに戻ってきたのは、自身の葬儀のときだった。

深夜に同乗していた男の車が交通事故を起こし、即死だった。

お通夜が終わり、弔客がすべて引き上げ、
家族だけで過ごした夜のことを、僕は忘れられない。

真夜中、客間の六畳で誰かの声がした。

僕は疲れきって寝ている両親をそのままにして、一人で部屋へ行った。

そこには、姉がドライアイス入りのお棺に安置されている。

怖くはなかった。

十年以上一緒に暮らして、家族仲の良い時期もあった。

姉は中学に入った頃くらいから僕と口を聞かなくなったが、
激しく反抗したのは母親だった。

僕は姉のことが嫌いじゃなかった。

憧れみたいなものもあったような気がする。

僕は好きだった姉に、最後の挨拶をしておこうと思った。

姉は事故の際ひどい怪我を負い、顔半分に包帯が巻かれていた。

それでも奇跡的に、右半分はかすり傷ひとつなかった。

お棺の開き扉をそっとあけ、
昔の面影が脳裏によみがえろうとする刹那、
信じられないことが起こった。

姉の閉じられた瞼が、ぱっちりと開いた。

白濁した瞳がゆっくりと僕を捉え、口角が震えている。

僕は思わず顔を横にして、聞き耳を立てた。

姉が生きている。

その奇跡を確かめたかったからだ。

「おまえも連れて行く」

呪詛の言葉が姉の口から漏れた。

僕は驚いて後ずさりし、少し離れた所から姉を見つめた。

姉は目を閉じたままだった。

僕は両親が寝ている部屋に戻り、がたがたと震えていた。

明け方になって気持ちが落ち着き、幻覚を見たのだと思った。

今では、それが幻覚じゃなかったことが分かっている。

姉は僕の前に時々現れ、にらみつけることもあるし、
悲しげに見つめることもある。

僕に何かを言いたいのだろうが、声をかけられないようだ。

それでも、姉は僕に会いたがっているような気がしていた。

・・・・その姉が最近変だ。

やはり祖母が連れて行こうとしているのだろうか。

姉の姿がフェイドアウトするのを確認して、
僕は真夜中のキッチンから立ち去ろうとした。

イスをテーブルに戻して振り返ると、そこに祖母がいた。

「今すぐこの家からお逃げ」

祖母は僕にそう言った。

「あの子はおまえを連れてくつもりだよ」

僕は一瞬のうちにパニックに陥った。

祖母はまるで生きているかのようだった。

「全部あの子の父親が悪いんだ」

父親・・・?

つまり僕の母親の元夫に当たる人のことか?

「あの男が血筋を絶やそうとしている」

僕は夢を見ているような気がして目を閉じた。

頭を振って再び目を開くと、なぜか母親が立っている。

夢遊病者のようにふらふらと体を揺らしながら、僕の方に近寄ってきた。

そして、突然こちらをカッと睨み付けたかと思うと、
男の低い声で語りかけてきた。

「一緒に死ぬんだよ」

母親の手には包丁が握られていた。

「部屋」

俺が小学校の時はDQNみたいなもんで、
思い出せば恥ずかしい事ばかりしていた。

そんな消防の夏のとき、俺が部屋でくつろいで買ったばかりのマンガを見ていると、
ふと気付いた事があったんだ。

押し入れの上の方に、小さな扉があったのだ。

好奇心旺盛だった俺は、読みかけのマンガをほっぽいてその扉に近付いた。

扉を上の方に軽く押すと、キイという音を立てて扉は開いた。

開く事を認識して、小さい椅子を持って来て扉から中が覗ける様にした。

椅子に昇り、扉を開け中を見ると、
普通に立っていられそうなくらいのスペースがあった。

中は真っ暗。

こんな凄いものを見つけた俺は、友達に見せて自慢してやろうと思った。

次の日、友達のげんちー(あだ名)を呼んで、俺はまたあの扉を開けた。

げんちーの家はお寺さんだった。

「な、すげえだろ!?」

「よっちゃん(俺のあだ名)すげえ!で、ここ入れるの?」

「知らん」

「じゃあ俺懐中電灯もってくるから、すこし待ってろ」

「うん」

数10分してげんちーは懐中電灯を2つ持って戻って来た。

早速、また扉を開けて中を覗く。

初めてその空間に光が入った。

中は、ネズミも埃も無かった。

心臓が好奇心でばくばくした。

「なんかあったか?」

げんちーが聞く。

「いや、何もない。入れるみたいだぞ」

そう言いながら俺はその部屋に入ってみた。

床はベニヤとかそういうので出来てると思ったけど、
案外しっかりとしていた。

「大丈夫、入れる」

俺のその言葉を聞きげんちーは入って来た。

中をしばらく歩き回ってみたが、何も無い。

しかし、床も天井も壁も、ぜんぶ真っ黒い色で塗りつぶされていた。

今思うとここが不自然なんだ。

押し入れの上の空間なのだから、上がたとえ広くても幅は狭いはずだ。

なのに、俺達は随分広い空間をうろうろしていた気がする。

歩いていても何も無いのに飽きた俺とげんちーは、
そろそろ降りようかと言う話になった。と、その時げんちーがふいに転んだ。

「いてて…」

「大丈夫か?」

「あ、うん………!?」

にこやかな顔で返事をしていたげんちーの顔がみるみるうちに真っ青になった。

なにかとんでもないものを見てしまったのかの様に。

「よっちゃん!早くここ出るぞ!!」

「どうしたんだよ。そんな急ぐ事も…」

「この黒いやつ、ぜんぶお経なんだよ!!」

おれはそれを聞いて途端にぞおっとした。

前にも書いたがげんちーの家はお寺さんで、
げんちーはお父さんに遊び半分でお経を読む練習をさせてもらっていたのだ。

それで、多少のお経は読める。

そのげんちーが読めるお経が、この部屋の壁天井床いっぱいに書れていたのだ。

「早く!出るぞ!!」

げんちーの声で俺は我に帰った。

今いる場所から扉までわずかちょっとの距離だったが、
俺達は全速力で走った。

ただもう、この黒い部屋から出たかった。

扉を押し、椅子の上に降りて押し入れから大急ぎで出て、
びしゃっと押し入れの戸を閉めた。

少ししか走っていないのに、息があがっていた。

「なんなんだよお、あれ……」

「父ちゃんに聞いてみよ、なにか、分かるかもしれん」

俺とげんちーは大急ぎで、げんちーのお父さんのお寺へと向かった。

「おとうさあん!!」

名前を呼びげんちーのお父さんが出てくるなり、お父さんは

「なにやってたんだお前ら!?」

といきなり怒られて、腕をぐいぐい引っ張られお寺の奥の部屋と連れられた。

それから俺とげんちーは、服を脱がされ、背中に何か書かれて、
冷たーい水を頭からかけられて、首に数珠みたいなものを掛けられ、
半日の間お経を唱えられた。

その間、何度も水を掛けられた。

儀式みたいなのが終わって、
俺とげんちーはげんちーのお父さんに強い剣幕でこう言われた。

「いいか、今日の事は忘れろ。思い出してもすぐに忘れるんだ」

真剣な顔でそういわれ、俺とげんちーはこくこくとうなずいた。

それから俺の母さんが迎えに来て、俺の事を涙ながらに抱きしめた。

おばあちゃんはただ、

「よかったよかった」

と涙を流すばかり。

げんちーは自分の家に帰った。

あれがあってから、近所の大人の人に俺はどうやらさけられている様に感じた。

げんちーも同じく、さけられているようだった。

忘れろと言われた為、また聞けばなにか起こるかもしれず、
誰にも何も聞く訳にも行かず、何年もたった。

げんちーとは今でも遊んだりする。

でもあのことは絶対に口にはしない。

お互い、分かっているのだ。

この間、家に帰る機会がったのであの押し入れを覗いてみた。

扉はあったものの、木と釘でめためたに打ち付けられてあった。もう入る度胸は無い。

「海」

これは俺が大学生になった時に知り合った友達の話しだ。

漏れの名前は仮に田口、友達は仮に佐藤としておこう。

さて、佐藤は今から3年半くらい前に、
海の近くのマンションに住み始めた。

佐藤は絵画を描くのが好きで、
何より海を書くのが好きだった。

そこで大枚を叩いて、海の眺めが最高によい部屋を借りたのだった。

佐藤は、毎日海を眺め、カンバスに海を描き、
朝は波の音で目が醒め、夜は安ワイン片手にベランダで海を眺めると言う
なんともまあリッチな生活をしていた。

漏れも実際、佐藤の部屋を何回も訪れてみたが、
本当にいい部屋だった。

朝日は入るし、波の音は丁度良い案配で聞こえてくるし、
海は絶景という程眺めがよい部屋だった。

さて、佐藤がその部屋に越して来てちょっとたった日、
漏れは初めて佐藤の部屋を訪れた。

佐藤は、

「ひまだったらいつでも来いよ」

と言ってくれたので、来てみたのだ。

ピンポーン

「佐藤?漏れだけど」

「おお田口、よく来たな。さあどうぞどうぞ~」

佐藤は人が来たのが嬉しくてたまらないと言った様子で漏れを出迎えてくれた。

靴を脱いで部屋に入ってみると、
まず目に入って来たのは沢山のカンバス。

それには様々な色、角度、大きさで描いてある海が描いてあった。

しかし、引越して来てから本当にごく短期間だ。

その間にこんなにも絵を描いたのかと驚いて聞くと、

「この部屋から眺める海を見てると、どんどん描きたくなってくるんだ」

と、ほくほくした顔で言った。

その日は夜中まで佐藤の部屋におじゃまして、
夜はベランダで海と絵を眺めながら酒を飲んだ。

それから何度も佐藤の部屋を訪れたが、
そのたびに絵は増えていた。

新しい絵を見る度に、色使いや角度、タッチなどはどんどん凄みを増していった。

しかし、心無しか絵が増える度佐藤の顔がやつれて見えた。

何回か部屋を訪れているうちに、俺はバイト先からクビを言い渡された。

そこで就職先を探す為、佐藤の部屋に行く機会がめっきり減ってしまった。

クビを言い渡されてから1ヶ月くらいして、
漏れはいつものように佐藤の部屋を訪れた。

しかしピンポーン、と呼び鈴を鳴らしても反応が無い。

ドアノブを回してみると鍵は開いていた。

部屋の中は真っ暗だった。

「佐藤…?漏れだけど……」

恐る恐る声を出してみると、暗い部屋からぼおっと佐藤が現れた。

「よ、よお…」

「…ああ、お前か……入れよ」

「あ、ああ」

靴を脱いで部屋に入った漏れの目に入った光景、漏れはそれにぎょっとした。

部屋の4分の3をうめ尽したカンバス、すべて海の絵だという事は察しが付いた。

漏れはそのひとつのカンバスを手に取り、電気をつけて絵を見ようとした。

が、電気が付かない。

カチ、カチと3回程やった所で佐藤がぼそりと言った。

「電気なら付かないよ…止められたんだ」

「止められたんだ…って、金払って無いのか?仕事は?」

開けた窓から、冷たい風と潮の匂いが入って来た。

「辞めた…」

「辞めたって…」

「部屋から出たく無い……海をずっと見ていたいんだ……そして描いておきたいんだ…」

漏れはぞおっとした。

この1ヶ月の間に、佐藤になにがあったんだ。

前ははきはきとして、自分の絵の解説をして、酒を飲んで、笑って…。

一体、何があったんだ?

漏れはその日、何も言わず佐藤の部屋を去った。

あんなになってしまった佐藤が恐ろしく感じるのと、
就職先を探すので忙しいので、佐藤の部屋にはあれから4ヶ月行ってなかった。

日曜日、漏れはふと佐藤の事が気になって、
恐ろしい気持ちを押さえ佐藤の部屋を訪れた。

ピンポーン…。

呼び鈴を押した。しかし反応はない。

「佐藤?」

ドアをノックしながら漏れは声をかけた。

しかしやはり反応は無い。

何回かドアをノックしていると、
ドアの向うから泣きそうなしゃがれた声が聞こえて来た。

「田口…」

「佐藤?佐藤だな。お前大丈夫か、生きてるか?とりあえずここ開けろ!」

「俺は…もう、だめだよ…駄目なんだ……だめなんだよおおぉ……ぅぅ」

「何が駄目なんだよ!開けろ!開けろって!」

「も、うだめな…ん……………………うああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーあぁーあ゛ーーーーーーーひぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーー」

と、突然扉の向うで耳を劈くような佐藤の悲鳴が聞こえて来た。

まるで、断末魔の様な声が。

「あああああああああ゛ーーーーーー、たぐちいいいいいいい、た、たすけてええぇぇぇ」

「佐藤、佐藤!どうした、まずここ開けろ!開けろ佐藤ッ!」

「あああああああああああああああ、ひぎゃああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ううぅぅぅぅぅああああがあああああ!!!たぐちいいいいい、たすけ、てええ、ころさ…、うみに……」

「!?、佐藤、佐藤!?」

突然悲鳴が、ぴたりと止んだ。

何度も戸を叩きベルを鳴らし、名前を呼ぶが返事は無い。

あまりのうるささにだろうか、隣の住人が出て来て、

「どうしたんですか?」

と訪ねられた。

「あっ、あの…ここ俺の友達の部屋なんですけど、
いきなり悲鳴上げてそれっきり、なにも言わないんです!!」

「そうなの…鍵は開いて無いの?」

「開いてませんっ!!」

「じゃあ、大家さん呼んでくるから、待ってて!」

そういって隣の部屋の人はパタパタと走っていった。

俺はまた名前を呼び続けた。

しばらくしてさっきの人が大家さんといっしょに走って来た。

大家さんは高速で鍵を開けた。

「佐藤!!」

まっさきに漏れが扉を開けた。

が、しかし……。

玄関には佐藤の姿はなかった。

部屋に入り、部屋のすみずみをさがしてみたがどこにも居ない。

「きゃあ!」

隣の部屋の女の人が、悲鳴を上げた。

漏れと大家さんがそこへ駆け付ける。

と、そこにあったものは、佐藤が書いたと思われる海の絵だった。

だが、その絵はどこか変だった。

海が赤いのだ。

赤い絵の具はまだ乾いていないようだった。

しかしーー

「これって…」

「………。」

その赤い色は絵の具では無く、血だった。

血が、カンバスの海の部分いっぱいに付けられていた。

漏れと、隣の女の人、そして大家さん。

そのおぞましい絵を前に、漏れたちは呆然と立ち尽くしていた。

けっきょく、佐藤はどこにも居なかった。

死体すらもなかった。

後に警察が来て、あの血で描かれた絵を持っていった。

それから3ヶ月、漏れはなんとか就職先を見つけられた。

佐藤のことが未だ忘れられず、もやもやとした気持ちであったが。

さらにそれから2ヶ月たって、漏れの携帯が鳴った。

電話相手は警察だった。

「田口さんですね?」

「は、はあ…」

一体、警察が漏れに何の様なんだろう?

「実は、佐藤さんの死体が海から見つかりました」

結局、佐藤はあれからずうっとたってから、何故か海で見つかったのだ。

原因は分からない。

居なくなる直前まで、扉ひとつ隔てて漏れの前で悲鳴を上げていたのに、
なぜ海にいるのだろう?それは誰にも分からなかった。

ただ、漏れはこう思う。佐藤は悲鳴が途絶える前に

「海に殺される」

というような事を口走っていた。

佐藤は、あの部屋から見える、
あの海に取り付かれてしまったのでは無いのか?と。

だれがなんと言おうと、漏れはそう思う。