<最怖>この世で最も怖い話まとめ

この世で最も怖い話をまとめています。毎日19時20時21時に1話づつ投稿。あなたを恐怖のどん底に落し入れます。朗読もはじめましたのでそちらもどうぞ。

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<最怖>憎悪

ある日仕事が終わり、
職場の先輩とファミレスに行った。

話が盛り上がって
気づいたら午前の三時になっていた。

それでタクシーで帰ることに。

先輩と私は家が逆方向で、
タクシーを二台呼んだ。

まもなくしてタクシーは来て、
先に来たタクシーを先輩が譲ってくれた。

お先に失礼して
タクシーに向かった。

小雨の降る夜だった。

タクシーの前に運転手が立っていた。

傘も差さずに。

しかし凄く丁寧な応対の運転手で、
物腰が柔らかく、
気品のある感じだった。

私は招かれるままにタクシーに乗った。

最初は些細な世間話をしていた。

口調は物凄く丁寧で、
自分が上流階級の人間ではないかと
錯覚してしまいそうなほどだった。

しかし、
話が変な方向に逸れ始める。

そのタクシーの運転手の苦労話になっていった。

会社を辞めた事とか、
家庭を失ったとかそんな内容だった気がする。

とにかく悲哀に満ちた内容だった。

私は元々霊感が強い方らしく、
なんかこいつやばいと感じ始めた。

どす黒いオーラが車内を包んだ。

早く家に着かないか、
圧されてしまう、
と思った。

小雨はまだ続き、
話し半分に

「大変ですね」

とか適当に相づちをうった。

早く帰りたかった。

美しいともとれる口調が不気味さを倍増させた。

そして運転手は言った。

「それでね、
私こんなふうになっちゃったんですよ…」

おもむろに左手を上げた。

腕がない。

身体欠損者に差別はないが、
サッと血の気が引いた。

同時に車内の空気が一気にまがまがしくなり、
そしていきなり私は激しい腹痛をもよおした。

あまりの痛さに車内で横になる私。

そして襲いかかる運転手の業のかたまりというか、
負の荷物というか、
そんなものが感じられる怨みにも似た気。

駄目だ、
自分を保たねば潰される。

本能的にそう思って自分を強く持った。

脂汗が止まらない。

その時に声をかけてきた運転手の

「大丈夫ですか」

「私に出来ることはございませんか」

という、柔らかい声と、
しとしとと闇に降る雨が逆に追い討ちをかけた。

結局家に着き、
とっさにお金を出してお釣りはいりませんと言って
タクシーから転がるように出て、
家に入って私室に入った。

しばらく呆然とした。

何故か部屋がしばらく真っ白に見えた。

不思議と腹痛はなくなっていた。

気が付いた時には
逆にテンパってしまった。

勝手な想像というか妄想だけど、感じたのは、
運転手が必死に生きてきて、報われなくて、
そしてあげくには世界に向けざるをえない憎悪だった。

不幸な人というのはこういう人だと思った。

また次の話でお会いしましょう。