<最怖>霧中の散歩
私が実家に帰ったとき、
体験したことです。
私は仕事を辞め、
某職員試験勉強に打ち込んでいました。
実家にいる間、
毎朝愛犬の散歩をしていたのですが、
ある日、犬がいつもより早く起きました。
午前4時10分くらいだったかと思います。
いつもは午前5時30分前後に散歩に行くので、
おかしいな~と思いました。
しかし、
それでも犬があまりに五月蝿く急かすので、
私は怖いながらも散歩することにしました。
外に出て、
いきなりどんよりとしました。
ド田舎なのもあり、
まさに一寸先は闇、
というくらい真っ暗なのです。
しかも、
霧がぶわーっと立ち込めていて、
纏わり付いてきます。
懐中電灯の明かりが非常に心許なく、
照らした先も霧で飲み込まれます。
でも、
怖がりの怖いもの好きな私は、
歩みを進めました。
道中には、
夜中に遭遇したくない嫌なものが多々ありました。
地元のさびれた神社の長い階段、
切れかけの蛍光灯の明滅、
霧の中をぼんやり映すカーブミラー、
傾斜地に並ぶ墓の群れ。
隣の犬の荒い呼吸もなんだか恐ろしかったし、
樹木にもたれ掛かる
人間そっくりの案山子にも絶叫しかけました。
静けさの中、
足音も響いて、
まるで肝試しでした。
ただ、意外にも
行きはあまり怖くありませんでした。
かくして、調子に乗った私は、
帰り道に田畑と森に囲まれた砂利道を選んだのです。
もちろん、
森ともなると霧がものすごく、
霧の町・ロンドンってこんな感じなのかな……
などと無駄なことを考えていました。
田畑に浮かぶ、
無表情の案山子の群れと、
赤く光る烏除けに怯えながら、
帰りも普通に歩いていました。
しかし、
家まであと200mのところでした。
『……ちゃん』
という呼び声がどこからか、
聞こえました。
なんだろう?と思いながら、
周りを見渡しますが、
霧でよく見えません。
『ぁ~ちゃん』
もう一度、呼び声が聴こえ、
そちらの方を少しだけ目を凝らして見ました。
そこには、
黒い人影が立っていました。
シルエットしか見えませんが、
おそらく上半身は人が、
口元に手を当てて、
おーいと呼ぶような形だったかと思います。
足を肩幅くらいに開いており、
どうやらこちらを見ているようでした。
もちろん、暗いので、
それに目がついているのか、
背中を向けているのか、分かりません。
でも、確かに
私のいる方向を見ている気がしたのです。
私は先程まで、
幽霊の類に遭遇せず、
調子に乗っていた分、
一気に背筋が凍りつきました。
しかも砂利道。
足音を立てずに帰ることもできないので、
私はそれに気づかない振りをして
やり過ごすようにしました。
もちろん、向こう側は見ず、
ただひたすら前だけを見て、
家までずんずんと歩いていきました。
途中、それがいた道に差し掛かりましたが、
それがいた方向には振り向かずに
ひたすら家まで歩を進めました。
そのおかげか、
今も何も起きていません。
でも、もし、あのとき振り向いていたら、
声を返していたら、
私はどうなっていたのか……。
そして、あの人影は、
何故、神社近くの道に立って、
誰を呼んでいたのか。
少し気になります。
また次の話でお会いしましょう。