<最怖>この世で最も怖い話まとめ

この世で最も怖い話をまとめています。毎日19時20時21時に1話づつ投稿。あなたを恐怖のどん底に落し入れます。朗読もはじめましたのでそちらもどうぞ。

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<最怖>橋の上の男

北海道の某市にて。学生の頃だった。

よく行ってた銭湯が、自転車で5分くらいのところにあった。

その夜もジャージ着てサンダル履きで、フロ道具持って、自転車に乗った。

目的地の銭湯は、道路を真っ直ぐ何百メートルか行って、
橋を渡って、また百メートル位行って、曲がったところ。

その辺は空き地や駐車場が多いし、夜だから、周囲には誰もいない。

良い気分で、手放しで鼻歌歌いつつ自転車を飛ばしていると、
遥か前方に誰かいるのが見えた。

北海道の街は碁盤の目で見通しが良いから、
相当遠かったがそいつが橋の上にいるのは確認できた。

体つきから男のように見えたが、すぐに変な事に気が付いた。

そいつは両腕を曲げて、欄干に必死で取り縋ったような妙な姿勢で、
橋の上で膝をついていた。

「酔っ払いが吐いてんのかな?」

とか思ったが違った。

そいつは首を曲げて、顔をこちら側に向けていた。

相変わらず周囲には誰もいないから、
そいつが今自転車を漕いでいる自分を見ているのに間違いない。

コートがバタバタ風に煽られているのにもかかわらず、
同じ姿勢でこちらを向いたままでいる。

「頭のおかしい奴かも」
「でも何か用があるのかもしれない」

頭の中で二つの考えが交錯した。

その間にも足の方は無意識にペダルを漕いでいるから、
そいつとの距離はどんどん縮まってゆく。

距離が50メートル位に縮まった時、
そいつの顔の一部がキラリと光った。

眼鏡をかけているのが分かった。

その奥の眼は、しっかり自分を捕らえていた。

「ああ、やっぱり自分に用があるんだ」

この時、自分はいわゆる「魅入られた」状態にあったのだろう。

「助けなければ」
「傍に寄って声を掛けなければ」

という考えしか、頭の中に浮かばなくなっていた。

自転車はどんどん進み、遂に橋の手前の横断歩道に差し掛かった。

「あのう」と声を掛けながら、
そのまま道路を渡ろうとしたその時、そいつの口が動いた。

自分に何か言おうとするのか…と思ったが、違った。

そいつは大口を開けて笑った。

笑うと同時に、顔が斜めにぱっくり2列に割れた。

両手は欄干を握っていなかった。

血塗れの指先が、まるで自分を手招きするようににチロチロと蠢いていた。

一瞬で全てを悟った。

小脇に抱えていた洗面器が落ちて、道路に転がり出た。

咄嗟にハンドルに手を掛けることが出来たのは本当に良かった。

満身の力を込めて、ブレーキを握り締めた。

まさに間一髪の命拾いだった。

信号が青になってから道路へ出て、
中に入れた石鹸ごとペシャンコに潰れた洗面器を拾い、
自転車を押しつつ橋を渡った。

時々「そこ」にお供物が置いてあるのを、以前から何度か見ていたはずだった。

タオル以外の風呂道具は銭湯で買いなおすことにした。

引き返す気は無かった。

恐怖の余韻はずっと続いていて、身体が震えて仕方なかったが、
気付いてしまった以上は、最後までこいつに負けてはならないと直感的に思った。

足をガクガクさせながら、橋を渡りきった。

暫く自転車を押して進んで、恐る恐る橋の方へ振り返ってみた。

あいつがいた。

橋を渡るときにはいなかったのに、また同じ場所に膝をついている。

さっきとは顔の向きを逆にして、
こちらを向いて自分を見ているのが遠目でもはっきりと分かった。

身体中から汗が吹き出た。

「もう諦めろ!頼むから引っ張るな!」

と心の中で叫んだが動じている気配は全く無かった。

それでも必死で念じていると、
不意に欄干にめり込んだ半身を窮屈そうに反らして、
再び向こう側へ首を曲げた。

諦めてくれたのだろうか。

急いで自転車に跨って、目的地へ向かった。

湯に浸かっていると多少は気が落ち着いて楽になった。

銭湯を出ると友人を呼び、厄払いのつもりで朝まで飲んで騒いだ。

下宿に戻ると、郵便受けにもう朝刊が挿してあった。

部屋で開いて目を通しているうち、ある記事に目が止まって愕然とした。

あいつが何故急に向こうを向いたのか分かった。

記事に出ていた人も学生で、行き先も同じ銭湯だった。

しかも事故は自分が辿り着いたのとほぼ同時の出来事だった。

物凄い罪悪感に襲われて、手に持った新聞の活字が涙で曇りそうになった。

昼休みにあの橋へ行くと、
欄干にグチャグチャに染みついた汚れの跡が遠目からもはっきり分かった。

お供物の数は2倍になっていた。

情けないがそれ以上近づく勇気は出なかった。

遠くから必死に手を合わせて、後は逃げるようにしてその場を立ち去った。

それからその橋を使うことは絶対になかった。

また次の話でお会いしましょう。